女喰い聖書・企画2006年4月4日
【寧々テキスト〜第八話〜】




■2001年4月19日・更新 <第八話>

『気持ち』

寧々「惚れた♪」


肋骨話で散々笑った寧々が指で涙をぬぐいながら言った。


俺「だろ?今ごろ俺がイイ男だって気がついた?遅いよ」

寧々「ちげぇーよ!お前の肋骨に惚れたっていう意味だよ!」

俺「どんな惚れ方だよ!全然うれしくねーよ!汗」

寧々「でもーその肋骨欲しいかも♪」

寧々友「ねー。私も欲しい♪」

俺「んじゃー、献体すっか?そんで理科室の標本にでもなってさ(笑)」

寧々「お前だってすぐわかるじゃん!あれ?コレらんまるじゃね?って(笑)」

寧々友「あはははははははははは!!」

俺「わはははははははははは!!!」


俺たちは笑い転げた。先ほどのギスギスした空気が一遍に和やかな空気に変わった。腹を抱え、ゲラゲラ笑い転げる寧々は、荷造り中の凛とした美しい顔立ちとはまるで違い、くしゃくしゃ顔で無邪気だった。こんな一面もあるんだ…。そう発見した時に心は大きく揺さぶられる。


寧々「っていうか、らんって変わってる奴だなー。普通、こんな話しないよ?」

寧々友「ね♪」

俺「遊びぢゃねぇから。命張ってっからよートークに(笑)」

寧々「はいはい。頑張ってまちゅねー(笑)」


手を差し伸べ、子どもをあやすように俺の頭を優しく撫でた。からかわれた形になった俺は寧々の手を掴み、邪険な顔をわざとしてみせる。手を握り合った状態で見つめあい、数秒が経ち、同時にクスクス笑った。

――随分と接近した気がする。寧々に。

相変わらず言うことはキツいが、目の前にいる女の表情は柔らかく、穏やかなものだった。それに何より…

可愛い。と思える。

外見的なことではなく、だ。顔は俺が見てきた女の中でも有数の美人であることは初めて会った時から知っていたし。そうではなくて……。態度というか、仕草というか、会話のテンポというか、今日一日付き合ってみて、妙に可愛い部分がたくさん見つかった。今もテーブルに並んだ料理をどれから食べようか迷っている横顔が、どこか可愛くて、ドギマギさせられる。


寧々「ま。初めて出逢った時は、感じ悪かったケドなー(笑)」

寧々友「だよねー。何、怒ってんの?みたいな」

俺「だから怒ってないってば!」

寧々「すぐ帰ったじゃん」

俺「……門限が。」

寧々友「絶対、嘘!(笑)」

寧々「女だ。女!うっわー。サイアクー(笑)」


”すぐ帰った”という俺の行為が、寧々たちにとってよほど鮮烈だったのだろう。反省しているなら罰として、これくらいイジワルさせろ、そんな仕返しを受けているようだった。


俺「門限だって言ってんじゃん。ウチはキビシーのよ?良家だから(笑)」

寧々「…う〜〜ん。ごめん!お前ン家を見たことあるけど良家には見えなかったなぁ」

俺「は?…なんで俺ン家、知ってんの?」

寧々「一回、コンパのメンツで、らん家に遊びに行ったことあるんだぜー?家の駐車場にらんの車が無かったから、留守じゃん?ってことで諦めたけど」

俺「マジで!?そんな話、聞いてないよ?」

寧々友「先月くらいかな?たしかにらんまる君、居なかったよねー」

俺「そんな話、野郎どもから聞いてねぇ…。超ハブられてんし(涙)」

寧々友「あっ。あたしちょっと…」

俺「あ。トイレね。行っトイレ!(笑)」

寧々「くだらない(笑)」


”なに馬鹿なこと言ってんの?笑”そんなジェッシャーを軽くしてから、寧々友(こずえ)は席を立ち、奥へ消えていった。俺はテーブル越しの寧々を、急な二人の空間に期待と照れが入り混じった複雑な心境で見つめて口を開いた。


俺「……はぁ。コンパの時、すぐ帰っただけでハブか…ショック…(笑)」


何気ない会話で話を繋げる。


寧々「……っていうか、らん?あのさ…」


さっきまでの柔らかな表情が急に曇りがかった。そんな話に用は無いと言いたげに会話をバッサリ切り、何かを言おうとして、そのまま黙り込んでしまった。飲みかう人々の騒がしい声と、ひときわ賑やかなHIPHOPの音楽。彼らなりにメッセージを乗せた歌声が店内を包む。


俺「あ?」


沈黙に耐えられなくなった俺は言葉を発したが、それがそっけない言葉だったことに気がつき、後悔した。

寧々「こずえのこと、どー思う?」


思わぬ一言にツバを飲み込み、答える。


俺「どう思うもなにも…さっきはあえて言わなかったけど、コンパにこずえちゃんが居たこと、覚えてなくってさ。驚いたんだよね…言うなよ?」

寧々「お前、マジで感じ悪いね」

俺「うっせーな。寧々に見とれてたんだよ。綺麗な子がいるなってさ(笑)」

寧々「………馬鹿」

俺「うん。馬鹿だ」

寧々「ほんと馬鹿だな。こんな時に冗談はいらないから。こずえ…らんのことかなり気に入ってるよ?」


こんな時に冗談はいらないから。サラっと言ったその一言が妙に引っかかり、ムっときた。理由はわかってる。意地を張る俺。

俺「冗談じゃ…」

寧々「みんなで遊んでいる時、らんの家に行きたいって言ったのはこずえだしなー」

俺「…………ない」

寧々「ま、こずえは友達だから私から忠告させてもらうけど、こずえを泣かすようなことをしたら許さねーから」

俺「冗談じゃ…ない。本気で言ってんだ。今、わかった。やっとわかったよ、この気持ち。やっぱ俺、寧々のこと――」

寧々「大事な友達だから」

俺「でもさ!」

寧々「もう遅いよ…。」

俺「は???なんだそれ???」

寧々「あ…違うよな。”遅かったのは私の方”。ゴメン…」


自分の気持ちがわかったと同時に、今、もう1つわかったことがあった。

肋骨の話の後、寧々の俺に対する態度が急に変わり、親しく接してくるようになったとは思っていたが、それだけではどこか半信半疑で断定できない。でも今の言葉を聞いて、寧々の気持ちがわかった。寧々も俺のことが…。

なのに、ここまできて寧々友を気遣う姿に無償に腹が立った。友達を想う気持ちはすごいわかる。受けることはできないけど、寧々友の気持ちは嬉しい。でも、だったら、なんで…


俺「随分、ズルイ発言だな。友達を想うんだったら、今のは言わねぇだろ。普通」

寧々「…………」


沈黙が走る。


寧々「だよな…。ゴメン。どうかしてた。やっぱり酔ってるとダメだね。本当にゴメン。私、帰るね」


そう言って、寧々友とすれ違い様に足早に店を出ていく。俺はその姿を見送り、ジョッキのビールを一気に飲み干す。乱暴に置いたジョッキの手元にあったピンクの封筒に気がつくと、手に取り、クシャっと握り潰した。