女喰い聖書・企画2006年4月4日
【寧々テキスト〜第九話〜】




■2001年4月19日・更新 <第九話>

『目に映ったのは』

席についてすぐさま寧々友(こずえ)は異変に気がついたようだった。


こずえ「あれ?寧々は?」


狭い店内を見渡しながら言うが、寧々の姿は見つかるはずもなく。この店のトイレは男女兼用で1つしかない。寧々がトイレに行ったとならば自分とすれ違っていいものである。もちろんすれ違った記憶はない。黙り込んで問いに答えようとしない俺を見るに導かれる答えは簡単で、


こずえ「寧々と何かあったの…?」


年代物のモダン調にデザインされた出入口を見つめ更に問いかけた。


俺「なんかさー、帰るって…」

こずえ「………ちょっと、電話してくる」


答えを濁す俺に痺れを切らし、ガタっと椅子を蹴ったと思えば、携帯電話を片手に持ったまま、足早に店の外へ出て行く。本人と直接話した方がその理由を知るに早いと判断したのだろう。

一人残された俺は、寧々のいない席を見つめ、追加注文したビールを喉に押し込んだ。


こずえ「ごめんごめん」


10分と少し。電話を終えたこずえは席につきながら言った。何を話していたのか、その内容が実に気になるところだが、聞いたところで、どうにかなるものか……。さっきまで盛り上がっていた空気も、今はシンと息を潜めて冷たい。もはやこれまで。お開きの流れ。


こずえ「…………」


こずえもその流れを察しているが、自分から「帰ろう」とは言わない。無言のまま俺からの一言を待っていた。


俺「よかったら…もう少し飲んでいかない?」


思っていたことと反対の言葉が出た。



――1時間と少し。こずえに付き合ってもらう形で飲んでいた。コトがコトだけに最初は淡々とした空気だったが、お酒が入るにつれ徐々に和らぎ、今は何事もなかったかのようにこずえと話している。途中からこずえがペースを上げ、お酒の量は相当量になっていったのが少し気になったが…


俺「あ。もうこんな時間…。そろそろ帰ろうかぁ」

こずえ「そうだね。帰ろう!帰ろう!(笑)」

俺「これ……寧々ちゃんに返しておいて。今日は割り勘ってことで」


シワになったピンクの封筒を差し出した。受け取ったこずえは少し躊躇し、何かを言おうとしたが、黙ってバックにしまいこんだ。そして席を立つとヨロヨロっと椅子によろめき、もう一度座ってしまう。あきらかに飲みすぎていた。


俺「……大丈夫かぁ?」


こずえの二の腕を掴み、よろめく身体を支えながら、会計を済ませ店を出る。


俺「チャリンコ乗れる?」


俺たちは寧々の家から、飲んでいた”寿司BAR”がある駅前の繁華街まで各自の自転車で移動してきたので、帰りも当然自転車をこいでいくことになる。支えがなければどこへヨロめくかわからないほど泥酔しているこずえに自転車の運転は至極無理な話しだが、一応聞いてみた。


こずえ「無理かも…」


当然の答えが返ってきた。さてどうしたものか…帰る手段を色々考えていると、急にこずえがヨロめいた。油断していた俺の手から身体が離れる。そのヨロめく方向は車道で、車がびゅんびゅん走っていた。危険を察した俺はすぐさまこずえの身体を引き戻す。慌てていて力の加減をしなかったせいで、俺の胸に強く飛び掛ってきた。身体と身体がぶつかる衝撃をなんとか踏ん張り、俺に抱きしめられる格好になったこずえ。同時にふくよかなおっぱいの感触が俺の下胸から全身に伝わった。艶っぽい吐息が俺の首筋をくすぐり、見る間に下半身が熱くなっていく。


こずえ「ありがとう…」


そう言うとこずえは離れようとはせずに、両手に力を入れてギュっと抱きしめ返し、そのまま黙り込んでしまった。

行き交う人々の騒がしい声と、車が通るエンジン音。電車が路線を揺らす音。普段ならうるさいと思うだけだっただろう。今はそんな賑わいが二人に変なムードを添えていた。

その中、俺の目に映ったのは、線路沿いに数件並んで怪しげに佇む、桃色や紫の派手なネオン管に彩られたラブホテルだった。