女喰い聖書・企画2006年4月4日
【寧々テキスト〜第二十三話〜】




<第二十三話> 2001年5月30日の日記リニューアル 


『大阪初夏の陣・C』

19時。寧々は化粧台の前を陣取り、手馴れた手つきで装飾作業に没頭する。これからお水の仕事へ出かけるためだ。かくいう俺はどうしているかというと同じく出かける用意をしている。

「やっっべぇ。今日、同伴のはずだったのにドタキャンされちゃった」

唇にルージュの口紅を滑らせながら鏡に向かって呟いた寧々にソファーに座わりながら靴下を履いている俺は言ってやった。

「それは残念だったな。ま。そういう日もあるさ☆」

慰めの言葉をかけてくれるはずの相手の声がテンション高めだったのが不思議に思ったか、寧々は口紅を持ったまま俺の方へ振り返るときょとんとした顔つきで見つめてきた。そして、

「あれ?らんちゃん。もしかして出かける用意してる?」
「え?ああ。寧々が仕事の間、部屋にいるのも寂しいから、テキトーに大阪の街をフラついてみようかと思って」
「ふ〜〜〜ん…。地理は大丈夫?」
「大丈夫だ。昼間にあちこち歩き回ったお陰で、だいぶ地理に詳しくなったから」
「………」

ますますきょとんとする寧々を尻目に俺は着々と出かける準備に勤しむ。行き先はナンパ橋に決まっていた。春に初めてこちらへ来た時に達成できなかった夢を叶えるべく今夜出撃なのだ。大阪の女に「ウチ。こんな大きいチンポ初めてやねん」とかゼッテェ言わす。チョー言わす(4cm)。やっぱり声かけは「ねぇ、彼女♪たこやきしない?」で決まりじゃね!?

そんな余計な事を考えていたら顔に笑みが溢れ、ニヤケ顔が止まらない。そして、それを見逃すほど寧々はカンの鈍い女ではなかったようで、

「ナンパ橋は地元の女の子っていないから気を付けてね」
「ななんだと!?」

思わず口走ってしまう。その時の俺の思考は以下だ。

――っていうことはアレか。東京で言うと新宿・渋谷辺りに遊びに来ている大半の人は埼玉人、っていう感じのアレか。だとしたら至極残念極まりないぞ。なぜなら生粋の大阪女を喰いたいからだ。生粋の大阪弁で「めっちゃキモチええねん」とか言わせたいからだ。はるばる大阪まで来たのだから大阪ブランドに染まりたいし、そこは譲れない。これは俺のこだわりでもある。地方に行ったら地方の女、みたいな。

「マジでやろうとしてたんだ…お前の友達から聞いていたから、まさかと思ってカマかけてみたらズバリだったなんて」

ここで我に帰った俺は言い訳を連発する。不覚だ。冷静であればカマカケくらい見抜けたろうに。っていうか寧々よ。お前はなぜ俺のこだわりを見抜いた風に言った?これも女のカンってやつなのか。だとしたら俺的にあまり嬉しくないカンの鋭さだぞ。

「ばーか。違うよ!そんなとこ行くわきゃねぇだろ(笑)」
「それに俺の友達から何聞いたかわからんけど、昔の話だから(笑)」
「1、2回、付き合いでナンパしたのを大げさに言うもんなぁ、俺の友達は。困ったもんだ(笑)」

挙動不審もいいところだった。

「…お前、嘘つく時に笑いながら言うクセがあるの知ってた?」

完全にバレていた。苦しい言い訳が続く。

「………ば、ばか言ってんじゃねぇ。生まれつきだ」
「じゃあ…どこに行くの?(にっこり)」
……たこやき喰いに…です
「違げェだろ!!女ぁ喰いにだろ!!」 「ちちちち違うって!汗汗汗」

冷や汗がたらたら垂れ流れてくるのを感じながら、あくまで素っ呆け続ける。ここで認めちゃいけないって経験が語っているんだもの。こうなったら最後まで素っ呆けるが勝ちだとも経験は語っている。どこまでも素っ呆けるのを覚悟して寧々の次の言葉を待っていると、

「……まぁいいわ。許してあげる」

意外にもあっさりとお許しが出た。

「いや…許すも何も…」
「同伴してくれたら許してあげるよ(笑)」

はあ、なるほどそういうことか。条件付きか。しかし寧々よ。いくら同伴のドタキャン喰らったからって彼氏を身代わりにすることはやめてくれ。大体、そこまで所持金ございませぬ。

「大丈夫。寧々が出してあげる」
「はい!?そこまでされる義理などないって。お金は大事に使おうぜ」
「義理ならあるもん。らんの誕生日プレゼントまだだったよね?プレゼントは今夜の飲み代っていうのはどう?」
「そんなむちゃくちゃな」
「同伴すれば、私にバックが入るしぃ…それにらんがいれば、仕事も楽しくなるしさぁ。ね、おねがい♪」
「し、しかしだなぁ…」
「それともナンパ橋の方がいいのかな?(にっこり)」
「…いきます」
「きゃ♪ありがとー☆これでメンツも保てるわッ」

なにやら誘導尋問に引っかかった感がすこぶる否めない中、寧々が働くクラブへと飲み行くことになった俺。ナンパ橋デビューの夢がガラガラっと崩れ落ちる音を脳内で聞きながら俺たちは家を出たのであった。